小学校での英語教科化、海外大学への進学希望者増など、英語教育への関心の高まりを受け、英語教育を目玉に掲げる学校も増えてきました。インターナショナルスクールや海外大学の日本進出も続いています。
そんな中、日本を含む12ヵ国から生徒が集まり、2022年8月29日に開校したハロウインターナショナルスクール安比(Harrow International School Appi)はどんな学校なのか。その実態や気になる学費などをご紹介したいと思います。
ハロウスクール(Harrow School)とは
ハロウインターナショナルスクール安比(以下「ハロウ安比」といいます)の母体であるハロウスクール(Harrow School)は、英国ロンドンのハロウ区にある男子全寮制のパブリックスクールです。1572年、地元の名士であるジョン・ライオンがエリザベス1世から設立勅許状を授与され設立されました。
450年という歴史を持ち、イートン・カレッジなどと並び、ザ・ナイン(The Nine)と称される、歴史・伝統のある名門パブリックスクールのうちの1校です。卒業生には錚々たる人たちが揃っており、元英国首相ウィンストン・チャーチルをはじめ8人の首相を輩出しています。
海外分校の運営母体
ハロウスクールは「男子全寮制のパブリックスクールというところで、「おやっ?」と思った方もいるかもしれません。というのも、ウェブサイト見ればわかる通り、ハロウ安比は共学校だからです。
実は、ハロウスクールの海外分校を運営しているのはハロウスクールではありません。中国のAsia International Schools Limited(AISL)という会社が、子会社のHarrow International Management Services Limited(HIMS)を通じて運営しています。AISLの子会社であるHIMSがハロウという名称のサブライセンスを付与し、イギリスにある本校、ハロウスクールさながらの英国式教育と経験を提供します、というものです。
AISLは、中国国内だけでハロウ北京校、ハロウ重慶校、ハロウ香港校、ハロウ海口校、ハロウ南寧校、ハロウ上海校、ハロウ深圳校、ハロウ珠海校の8校を、さらにタイのバンコクでもハロウバンコク校を運営しています。ハロウ安比の校長/創設者も、以前はハロウバンコクで校長を務めていたようです。
アジアにある他の学校を見ればわかる通り、ほとんどは中国にあり、もともとは中国の会社が中国の富裕層を対象として開校したのだろうと推察されます。教育に対する投資の高まりを受け、これまで中国にはハロウを含む数多くのインターナショナルスクールが進出していきました。
そうした流れの中で日本校を開校した背景には、2022年5月、中国政府が教育産業への規制強化の一環として「外国名の校名使用を禁止する」規制を発表し、外国系の学校への締め付けを強めてきたことがあるのかもしれません。
生徒数
ハロウ安比は全寮制です。Year7~Year13(日本の小6~高3)までの920人の生徒すべてが寄宿生となります。
河北新報によると、開校初年度(2022年度)に入学したのは約180人。約半数が日本の生徒で、他に中国やタイなどのアジアを中心に、12ヵ国から生徒が集まったようです。
なお、2022~2023年度に入学できるのはYear7~Year10の子のみとなっています。
学費などの諸費用
入学金
入学検定料と入学金は以下の通りです。
- 入学検定料:22,000円
- 入学金:772,000円
なお、開校初年度(2022年度)は入学金免除となります。
その他、入学保証金として以下の金額が必要となります。
- 日本人の生徒および日本に居住する生徒の入学保証金:440,000円
- 留学生の入学保証金:880,000円
学費
2022/2023年度の学費は以下の通りです。
Year(学年) | 金額 |
Year 7 | 8,490,000円 |
Year 8 | 8,490,000円 |
Year 9 | 8,820,000円 |
Year 10 | 8,820,000円 |
Year 11 | 8,820,000円 |
Year 12 | 9,270,000円 |
Year 13 | 9,270,000円 |
学費に含まれるものは以下の通りです。
- 授業料
- 寮費
- コ・カリキュラ&スーパー・カリキュラム
- 遠足や旅行にかかる費用
- 交通費
- その他
制服や1対1のスポーツのコーチング、その他の個人的な費用は含まれていません。
兄弟/姉妹が同時に通う際の割引制度もありますが、3人目以降に適用で「3人で5%、4人で10%、5人以上で15%割引」となっており、対象となる家庭は限定されるでしょう。実際にこの制度を利用できる日本人家庭はほとんどないと考えた方がよさそうです。
総費用
日本人及び日本に居住する生徒が、2022/2023年度の学費でYear7~Year13までをハロウ安比で過ごした場合の総費用は
入学検定料22,000円+入学金772,000円+入学保証金440,000円+7年間の学費61,980,000円=63,214,000円
となります。約6300万円です。なお、ここでは開校初年度は免除される入学金も含めて計算しています。
この金額を高いと感じるか安いと感じるかは人それぞれですが、試しに日本の私立医学部の中でも学費が高いことで有名な川崎医科大学医学部と比べてましょう。2022年度募集要項・大学パンフレット等を参考に算出した川崎医科大学の6年間総費用は約4700万円。ハロウ安比の7年目の学費約930万を差し引いて考えても、まだ(学費)最高峰の私立医学部の総費用を超えた金額となることがわかります。
小学生の子どもを英国に送り出して高校まで通わせる場合の授業料・生活費などを考えれば、そこまで高いと言えないという考えもありますが、いずれにしてもある程度の所得がなければ検討すらできません。これだけの金額を躊躇なく出せる家庭か、金額を上回るメリット、つまり投資価値があると考える人以外はなかなか手が出せないように思われます。
しかし、これはあくまで日本の一般家庭にとっての話であり、中国や東南アジアの富裕層となると話は別です。アジアの富裕層にとっては、日本は何よりまず安心・安全な国であり、円安が進行していることも加味すれば魅力的な教育投資の対象になるのではないかと思われます。
進学先
ハロウ安比は2022年8月29日に開校したばかりですから、まだ進学実績はありません。今回入学したのはYear7~Year10までの生徒さんですから、進学実績が公開されるのは2026年以降ということになります。ハロウ安比のウェブサイトによると、ハロウインターナショナルの卒業生は以下のような大学に進学しているようです。
- 数多くの日本有名大学
- オックスフォード、ケンブリッジ、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンなどの英国の大学
- アイビーリーグなどの米国の大学
メリット
コネクションを形成できる
まず第一に挙げられるのがコネクションです。前述の通り7年間の総費用は約6300万円ですから、入学者は自ずと富裕層の子弟に限定されます。日本だけでなく、中国や東南アジア諸国の富裕層の子弟が集めることで、将来の財産となるコネクションを形成することができるでしょう。
英国式教育を受けることができる
日本にいながらにして英国式教育を受け、イギリスでの高校卒業資格を得ることができるという点は、子どもを外国の学校に通わせたい、海外の大学に進学させたいと考えているご家庭にとって大きなメリットになります。
安全である
安心・安全は、ハロウ安比のというより日本の特性です。物騒な事件がまったく起こらないというわけではありませんが、欧米などに比べれば日本はまだ安全な国だといえます。欧米における治安悪化やアジア人に対するヘイトクライム、外国人嫌悪などが今後どうなるかは未知数で、アジア人にとって必ずしも安全な場所とは言えません。事情が分かっている大人であればまだしも、子ども1人を送り出すのはリスクだと考える人もいるでしょう。
デメリット
コストが高い
2022年度入学者は入学金が免除になるとはいえ、学費だけでも約850万かかります。それだけのお金をポンと出せる富裕層を対象にしていると言えばそれまでですが、気軽に入れる学校でないことは確かです。
日本の小・中・高等学校の教育課程を修了したことにはならない
ハロウ安比は、法律上「各種学校」として認可を受けており、教育課程を修了することでイギリスでの高校卒業資格を得ることはできるものの、日本の小・中・高等学校の教育課程を修了したことにはなりません。日本の大学に進学する上で不利になるようなことはありませんが、気になる方は事前に確認しておくと良いでしょう。
ロンドンのハロウスクールとまったく同じではない
ハロウスクールの教員がハロウインターナショナルスクールに移動することもあるようですが、指導に当たるのは基本的にハロウインターナショナルの教員たちです。男子校と共学校という違いだけでなく、様々な面で違いがあることは認識しておくべきでしょう。
また、ハロウインターナショナルスクール間での転校は比較的容易なようですが、ロンドンのハロウスクールは大きく異なる入学要件があるようです。まずはハロウ安比に入り、途中からロンドン校への編入を目指すのは難しいかもしれません。